ものごとは心にもとづき、心を主とし、
心によってつくり出される。中村元訳(『真理のことば』1-1)
2002.04.18
『真理のことば』(一般に『法句経』と呼ばれる釈尊の初期経典の一つ)の冒頭を飾るこの文章の中に人間存在の基本原理が簡潔に表明されている。ものごととは、私たちが毎日経験し、また目にしている生死・善悪・愛憎・苦楽・幸不幸・・・の悲喜劇すべてをいう。そして、これら二元性は私たち自身の心から生じてくるというのだ。とりわけ意外に思われるかもしれないが、生死さえ心より起こるのだ。しかし、仏教はこの二元葛藤するサンサーラの世界(生死輪廻する世界)にあって、いかにうまく世渡りをし、生き延びるかを説いているのではない。むしろ、これら二元性が生じてくる心に誑(たぶら)かされ、どちらにも執着してはならないと教えているのだ。さらに言うならば、心によって私たちは天国から地獄までも作り出すが、夢(心が投影したもの)に実体がないように、いずれも幻影の世界であり、人間界もその一つに過ぎないのだ。だからと言って、釈尊をはじめ、古の聖賢たちはこの世界を離れたどこかに二元性を超える一真実の世界を求めたのではない。要は、心が消え去るならば、生死をはじめとする二元葛藤する世界はあるだろうかということだ。果たして、心を除き、真理に目覚めた覚者(仏陀)たちの目に、この世界はどのように映っていたのであろうか・・・。(可)