光華女子学園

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克己

 この言葉は『論語』の中で孔子が弟子に向けて述べた言葉「克己復礼(こっきふくれい)」として広く知られるものです。この四字熟語は文字通り、己に打ち勝ち、礼節に立ち返るというのがおおよその意味ですが、とくに己に克つこと(克己)の重要さを説く教説は『論語』のほかにも見られます。

 西洋文化圏に目を向けてみると、プラトンが「己に打ち克つことこそ、最大の勝利である(最初にして最大の勝利とは、自分自身に打ち克つことである)」という非常に有名な言葉を残しています。他者に打ち勝つのみならず、自身に打ち勝つことの重要性を説いており、非常に含蓄に富んだ言葉であると言えます。

 類似する教説はこれまで挙げたもののほかに、仏教にも見出されます。初期仏典として知られる『ダンマパダ』には次のような文言があります。

 「戦場において百万人に勝つよりも、唯だ一つの自己に克つ者こそ、じつに最上の戦勝者である。(和訳については中村元訳『ブッダの真理のことば・感興のことば』参照)」

 さらにジャイナ教の白衣派聖典(『ウッタラッジャーヤー』)に目を向けると、仏教のものと非常に類似した文言があります。なお、ジャイナ教とは仏教と同時期にインドで生まれた宗教ですが、仏教との共通点の多さから、両宗教は双子の宗教とも呼ばれます。

 「勝利しがたい戦闘において百万人に打ち勝つ者にとっても、唯一の自己を克服することは最高の勝利である」(和訳については堀田和義「仏教が辿らなかった道 双子の宗教・ジャイナ教から見た仏教」参照)

 両宗教の文献にこれほど類似した文言があるのは非常に興味深い点ですが、いずれにせよ自己に克つことは非常に困難な課題であり、なおかつ重要な目的として共有されていたことが窺い知れます。

 ここで言及した文言は、文化の東西は違えど、その本質は近しいものであると考えられます。もし困難な局面に直面した時、その解決は古典の中に見出されるかもしれません。

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