今回は本学園にもゆかりのある「知恩・報恩」を初期経典の一節から紹介します(『原始仏典III 増支部経典』第一巻、p.150)。
まず、「知恩報恩の者」とともに「得難い」とされている「先に行う者」とはどのような者でしょうか。
増支部経典は、教えを数ごとにまとめた短編の経典集です。今月のことばは、2の章からの引用ですが、3の章では、3つの生じ難いものとして、仏の出現、仏の教えを説く者の出現、そして知恩報恩の者の出現が挙げられています。また、5の章では、仏の出現、仏の教えを説く者、仏の教えを理解する者、その教えを実践する者、そして知恩報恩の者が得難い者たちとして列挙されています。これらの経典から「先に行う者」とは、生老病死をはじめとする苦海の彼岸を求め、そこへと渡った仏と、その仏を追い日々努める者たちといえるでしょう。
彼ら「先に行う者」たちは、いわば「先輩」です。そしてその「先輩」の足跡は、「後輩」すなわち後に渡ろうとする者の道しるべとなり、それゆえに援助となります。
つまり、知恩・報恩の者とは、先人たちの中に自分と同じ目標を掲げる「先輩」がいることを、そして、自分がその「先輩」たちの「後輩」であることを認め、その「先輩」たちが残した足跡が、進み行く自分への援助となることを知っている者たちということです。「後輩」は、目的を共有する「先輩」に出会うことで、目的の地がどの方向にあるか、そして、自分自身がいま目的の地への途上のどこにいるかを確かめることができるロードマップを手にするのです。それゆえに、「後輩」は、ロードマップを渡してくれた先輩の恩を知り、自分のためだけでなく、その恩に応えるために、目的の地にたどり着くべく努力する者となります。
新年度を迎え、本学にも多くの新入生を迎えました。また、2年生以上の学生・生徒たちも一つ上のステップに進みました。新入生も、上級生も、これから始まる新しい学校生活や、次の1年に、不安とともに夢や希望を抱いていることと思います。 夢や希望を実現していくときに大切なのは、何よりもまず自分の足元を確かめることです。自分の現実の確かめがあって、はじめて夢は具体化されて、実現への道程が見えてきます。そして、正しく自分の現実を確かめ、夢を具体化し、それを実現する道筋を見出すためには、先輩に出会う必要があります。次の自分の未来を手探りし始めたみなさんにこの今月のことばを送りたいと思います。自分で自分の限界を決めず勇気を持って、自分の先輩を見つけ出してください。(宗教部)
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