いのちより大切なものがあると知った日生きているのが嬉しかった」
星野富弘
「いのちを大切にしましょう」ということは、どこでも聞かれる言葉です。子どもの頃から幼稚園・保育園でも、学校教育でも先生から言われてきたことですし、家でもそう教えられてきたことでしょう。でも、これは実際には難しいというのが、世の中を生きるということなのです。 「どうすることが」いのちを大切にすることなのでしょうか。なるべく気をつけて交通事故にあわないことでしょうか。1秒でも長生きすることでしょうか。
「価値のあるいのち」と「価値がないいのち」というように、私達の「ものさし」で人のいのちをはかることがあります。これは大変悲しいことではありますが、世の中がどうしても価値があるか、ないかという「ものさし」で動いているものですから、元気で働けるうちは価値があり、病気になったり年をとったりすると価値がなくなったと捉えてしまう。 そんな中で「いのちを大切にする」というよりも、世の中の「ものさし」の方を大切にしてしまうことが多く、その「ものさし」に振り回されているから、私達は苦しい思いをし、悩んでいくのだと考えられます。
『今月のことば』は星野富弘さんの言葉です。星野富弘さんは元高等学校の体育の先生でした。鉄棒の模範演技の折に事故で、頭は正常ですが、身体の自由を失われ、今は絵筆を口にくわえ多くの作品を発表され活躍されています。その作品は多くの人々に感動と生きる喜びを与えており、今月のことばはその絵画の一つに添えられた言葉です。
注目したいのは、「いのちより大切なものがある」という言葉であります。このように提起されていますが、「いのちより大切なもの」とは一体どんな「いのち」なのでしょうか。星野さんはそのことには触れていません。しかし、いのちより大切なものに出会われたことは、思い通りにならない人生の中にあっても、生き生きと輝いて自分らしく生きていける場を見つけられたのだと思います。それは現実から逃げるのではなく、それを引き受けて生きる自分になられたことを表現しているのです。
私の都合という「ものさし」を打ち破るはたらきに出遇うことが「いのちより大切なものが見つかる」ということだと星野さんに教えられます。(宗教部)
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