この一節は『ダンマパダ』(『法句経』)の中の一節です(第5偈)。
アフガニスタンで長年、復興活動に携わってきた中村哲さんが、12月4日、銃撃され、亡くなられたという悲報が届きました。アフガニスタンでは、2001年9月のアメリカ同時多発テロ以降に、首謀者アルカーイダを匿っているとしてアメリカ軍により、掃討作戦が行われ、多くの犠牲者が出ました。現在は、反政府武装勢力タリバンとISによるテロや襲撃が繰り返され、治安の悪化に歯止めがかからない状況のようです。まさに憎悪が憎悪を生み出し、怨みが途絶えることなき状況であると言えます。
一方、2015年11月に起きたパリ同時多発テロ事件で最愛の妻を失ったアントワーヌ・レリスさんは、事件後フェイスブックに「テロリストへの手紙」を投稿し、「ぼくは君たちに憎しみを贈ることはしない」と伝えます。「憎悪に怒りで応じることは、君たちと同じ無知に陥ることになるから」です。そして、母を亡くした息子を憎しみの中で育てはしないと宣言します。このように人は絶望的な悲しみに中にあっても、なお他者を憎まないという選択をすることができるのです。
先の句に続けてブッダは「怨みを捨ててこそ〔怨みは〕静まる。これは永遠の法である」と説きます。同じ愚かさの病に向かうのではなく、怨みを返さないという仕方でしか争いが止むことはないのです。
憎悪に対して怒りで返すことは、愚かしいことであり、どれほどの善行をしてきたとしても全て無意味になってしまうとブッダはいいます。怒りの感情を起こさないということは無理でも、怒ってしまったとき、怒りを起こしてしまった自分自身の心と向き合い、省みることはしたいといつも思います。
現代の日本社会でも憎しみが渦巻いています。もはや社会は、憎しみに分断されて瓦解しそうなほどです。しかし、私たちは次世代にきれいな世界を残していく責任があります。ブッダの言葉にあるように、憎しみに憎しみで返してもその先には悲劇しかないのです。このような時代にこそブッダの言葉に学び、自らを省みる姿勢が必要なのではないでしょうか。憎しみに憎しみで返さないよう心を鍛えていくことができる一年にしたいものです。
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