今月のことばは「和」です。
皆さんもご存知のとおり仏教を日本に広められたのは聖徳太子と言われており、浄土真宗の宗祖親鸞聖人も皇太子聖徳奉讃で「和国の教主聖徳皇 広大恩徳謝しがたし 一心に帰命したてまつり 奉讃不退ならしめよ(日本に初めて仏教を説きひろめてくださった聖徳太子の広大な恩徳は、 どれほど感謝してもし尽くせるものではない。 その教えにしたがって一心に阿弥陀仏に帰命し、 敬いたたえ続けるがよい)」と詠まれたように、聖徳太子を大変尊敬されています。この聖徳太子が仏教を政治の理念とし定められた十七条憲法で、第一条を「和を以て貴しとなす」とされたことにより、仏教の目標である「和」が日本人の価値観に深く根づいたのではないでしょうか。
和というと皆さん平和ということを思われると思います。世界平和は誰しもが願うことでしょうし、安らかな憩いの場としての平和な家庭を望まない人もいないと思います。また人間関係のストレスや自分の思いと現実とのギャップなどに悩まされ、心の平和を望むのも人間の普通の姿だと思います。それではこの平和を得るためにはどうしたらよいのでしょうか。多くの方が平和を望むなか、自分の思う平和で周囲を抑えつけ、自分の平和を勝ち取ろうとする人もいます。また自分が我慢し続けまるく収めることで、平和を保とうとする人もいます。これらで真の和は得られるでしょうか。勝ち取った平和には常に抑えつけられた人が出ますし、我慢し続けても人間いつかは耐えられなくなるものです。「和」とは相反するすべてのものが生かされていることを言うのではないでしょうか。青、黄、赤、白が一色に塗りつぶされるのではなく、それぞれの色が自分の存在を主張しているときにこそ調和が生じます。すべての音が生かされ、まとまってはじめて協和音が生まれます。すなわち、相反するものの中間ということではなく、「和して同ぜず」という姿こそが真の和であり、仏教でいうところの和ではないでしょうか。
和を望んでやまない私たち、一方で「自分がこれほど気を使っているのに、なぜ分かってくれないの」「自分が頑張って仕事をしているから何とかこの職場はもっている」「自分の言うことは全く聞かないね」など、常に「私」を中心に考えてしまう私たち。これでは当然、和して同ぜずには程遠いと思います。聖徳太子は、十七条憲法の第十条で、「我必ず聖に非ず 彼必ず愚かに非ず 共に是れ凡夫ならくのみ」とおっしゃっておられます。「私の彼もみんな凡夫であり、同じように悩み、苦しみ、泣き、愚痴る」ということをさとるとき、「私」に執着している自分が崩れ、和につながる一歩が始まるのではないでしょうか。権力闘争の真っただ中を生きられた聖徳太子が示されたのは、我々にみなと仲良くせよということではなく、和がいかに困難なことであり、自分の心の中に和を得ることがいかに難しいかという自ら味わった経験をもとに、自らを含め、全ての人々の心のあり様の目標として「和」を掲げられたのではないかと思います。
このように考えますと、「和」は相手を責めるのではなく「許す」ということです。近年、この人を「許す」ということがなくなりつつあるように感じます。自分が凡夫であるという自覚が生じた時はじめて人を許すことができ、すべての人々と和していくことができる。蓮如上人御一代記聞書に「信をえたらば、同行にあらく物も申すまじきなり、心和らぐべきなり。・・・また信なければ、我になりて詞もあらく、諍ひもかならず出でくるものなり・・・」という言葉があります。信を得る、すなわち凡夫であることの自覚が和への第一歩です。自分もこのことをしっかり意識し、心掛けていきたいと思います。(宗教部)
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