「削減経」などいくつかの経典の最後に登場する一節です(片山一良『中部』)。同趣旨の内容は、釈尊の晩年を描いた「大般涅槃経」に残された、釈尊の最後のことばを通してご存じの方も多いと思います。
いかなるものも移ろい行く性質のものです。怠ることなく努めなさい。
人生の中で必ず現実に直面する時がくるから、「あの時やっておけば良かった」と後悔することがないように、怠けることなく努力しなさいということでしょう。 当たり前と言えば当たり前のことですが、注釈者ブッダゴーサは、釈尊45年の説法すべては、この「怠るな」という一言にまとめられると解説しています、そのことばを今月は考えたいと思います。
昨秋のラグビーワールドカップでの日本代表の活躍を覚えておられる方も多いことでしょう。決勝トーナメント進出はなりませんでしたが、優勝候補の一角、南アフリカ戦での勝利は「スポーツ史上最大の番狂わせ」とも言われました。このときの活躍で一躍時の人となった五郎丸選手が、07年から日本代表を指揮したジョン・カーワン(JK)前ヘッドコーチとのやり取りをインタビューで回想しています。
11年のW杯に向けての代表合宿に召集されながらも、代表落ちとなった五郎丸選手にJKは聞きます。「過去は変えられるか」。当然Noです。次に「未来は?」と聞かれYesと答える五郎丸選手に、JKは「違う。お前に変えられるのは現在だけだ。今を変えない限り、未来は変わらない」と言ったそうです(2015年12月3日朝日新聞夕刊「一語一会」)。当時はその言葉の真意を計りかねた五郎丸選手ですが、その後、昨秋のW杯に向けて「先を見ずに」一瞬一瞬目の前のことに全力で取り組み、 4年間の「現在」を変えた続けた結果が、南アフリカ戦の勝利だと語っています。
誰しもより良い未来を望みます。より良い変化を望みます。そうやって未来を求めながら、あるいは、未来におびえながら、わたしたちはしばしば自分の「今」におろそかになります。そして、未来の自分にやることを期待して、今の自分を甘やかしてしまいます。
今なすべきことに全力で取り組むことは、容易なことではありません。しかし、この一瞬一瞬に、自分の感情や周囲の状況に振り回され言い訳をしてやるべきことから逃げていないか、自分に尋ねることはできます。釈尊のこの一言は、自分で自分のあり方を振り返ることを教えてくれます。自分の「今」に向き合いながら、精一杯生きる一年にしたいものです。(宗教部)
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