(武者小路実篤)
3月11日に起きた東日本大地震により多くの命が失われ、今なお、安否の分からない方や、避難所生活を送られている方が大勢いらっしゃいます。この天災で、普段以上に命の重みや尊さを強く実感し、失われたものの大きさに胸がつぶれるような思いがいたします。まずは被災者の皆様が、一日も早く元の生活を送ることができますよう心より願っております。
さて、今月のことばは、代表作に「友情」、「愛と死」等がある武者小路実篤さんという近代日本の作家が残したことばです。本当は、このことばの前に「天与の花を咲かす喜び 共に咲く喜び」ということばがつき、「天与の花を咲かす喜び 共に咲く喜び 人見るもよし 人見ざるもよし 我は咲くなり」と続きます。
自身を花に例えたこのことばを直訳すると、「天から与えられた自分自身を咲かす喜び、他者と共に咲く喜び、そして、人が自分を見ていても、見ていなくても構わない、私は私として咲きます」となるでしょうか。植物が人の目を気にせず、季節が廻ればその花を美しく咲かせるように、私たちも自然のままに、自らの尊い命を咲かせればいいという意味だと思います。社会生活を送る上で、時に私たちは他人の評価や世間の価値観に振り回されてしまいます。しかしこのことばは、一人ひとりそれぞれが、かけがえのない命を、自分らしく凛とした姿勢で生きていけばいいのだと伝えているようです。
また、このことばを聞いて思い出されるのが、「天上天下唯我独尊」ということばです。これは、お釈迦様が、生まれてすぐ七歩歩いておっしゃられたことばだと伝えられています。
これは、この世にただ、私だけが尊いという意味ではなく、また、他人と比べて自分の方が尊いということでもありません。本当の意味は、私たち一人ひとりが、「この世にただ一人の、誰とも代わることのできない人間として、かけがえのない尊い存在、尊い命」であるということです。それぞれの個性の違いを認め合い、優劣なく、それぞれすべての命が尊いのだと認識することに他なりません。
寒い冬を乗り越え、今年も春になりました。桜が咲き、世界が花の色で色彩豊かに染まり、生命力あふれるこの季節に、新しい生活を迎える学生さんや皆様が、また、それぞれの美しいいのちの花を咲かせることを願ってやみません。(宗)
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