今月の言葉は、鎌倉時代初期の禅僧で、日本における曹洞宗の御開祖道元善師(1200年~1253年)のお言葉です。この言葉は、正法眼蔵の中の現成公案の巻の一節に書かれており、「仏道をならうというは、自己をならうなり。自己をならうというは、自己を忘るるなり」と続きます。
私たちは、日常生活を送る中で、本当の自分を見失いそうになることがあります。それは、これまで自分が培ってきた考え方が優先し、それ故自分の価値観で物事を考え、結果として、自分以外の者に対しその価値観を押し付けてしまうことがあります。そして、その延長線上には、何が正しくて何が間違っているのか分からなくなり、自分自身を見失うのではないでしょうか。
しかし、自分の価値観と言うものは大切なものです。人それぞれ育ってきた環境が違い、それぞれに個性があり、一人一人の人間性や価値観があってこそ今の世の中が成り立ち、今の自分が存在するのです。
「自己をならう」とは、「自己を知り、自己を超える」と換言できます。ただし、それは永遠の課題でもあります。常に自己を知り、自己を超えられれば苦悩など感じなくなります。 これは、人間として生を受けた以上いたしかたないことです。
では、「自己を知り、自己を超える」にはどの様にすればよいのかが問題となります。
それは、自らのルーツも含め、人生そのものを知り、人生におけるあらゆる苦悩を見届け、それを超えることにほかありません。その手段として、仏教が挙げられます。決して、幸福実現のため、お金や物、病の治癒、人間関係の修復などの手段として仏教を拠り所とするのでなく、自らを振り返り、自らを見つめ直し、自らに問い掛けるものでなければなりません。
その実践として、自分自身について客観的な智慧や知識が増え、新しい物の見方で自らを捉え直せるようになり、自ずと今までの苦悩が小さく感じられ、偏った価値観を捨て去ることができるのです。 つまり、仏教の教えを通じて自問自答を繰り返し、常に自分自身の立ち位置を見極め、自らを見失わないように軌道修正していくことが大切です。
是非とも今一度、自分自身の生き方を見つめ直し、「自己をならう(自己を知り、自己を超える)」機会にしていただければと思います。(宗教部)
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