生かさるる いのち尊し けさの春(中村久子)
中村久子さんは、一八九七年、飛騨の高山で誕生されました。三歳のとき突発性脱疽に罹り、両手両足を無くされました。中村さんは、その障がいの事実を真正面に引き受けて、人権意識が未成熟で障がい者への差別の厳しい、生きていくのも非常に困難な時代を、女性として、母として、そして何よりも一人の人間として七二年の生涯を生き抜かれました。晩年詠まれた「手足なき身にしあれども生かさるる今のいのちはたふとかりけり」に、自己の「身の事実」を機縁として、真実の世界に目覚めていくという、中村さんの心の軌跡が窺えます。 春は、全ての「いのち」をはぐくみ、育てる自然の営みの尊さをひとしお輝かせて見せてくれます。中村さんは、その中に生をうけ、生かされている自らに気づかされ、その事実によろこばれたことと思われます。目覚めるたびに今朝も生きているとの確認は、生かされていることの体感であり、実感であったのでしょう。その体感が苦難の中を精一杯生きる力となったものと思われます。 「今月のことば(句)」は、新しい春を迎え、あらためて人間の存在の真実を考えさせてくれます。(兒)
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