推古天皇30年(622)2月22日、仏教興隆につとめられた聖徳太子が亡くなりました。「今月の言葉」は、聖徳太子が亡くなる前に、妃の橘大郎女(たちばなのおおいらつめ)に捧げられた言葉で、太子の仏教理解の深さを示すものとされています。太子の死後、橘大郎女は太子が往生されたという天寿国(浄土の世界)を刺繍で表し、その中に「世間虚仮 唯仏是真」と織り込ませ、太子を偲ばれました。それがこの言葉です。
聖徳太子の時代の日本は、氏族間での権力争いが続き、まだ統一された国家として定まらない、近隣国からも国として認められていない状態でした。そうした中、太子は推古天皇の摂政となり、近隣国も認める平和な「国家づくり」につとめられました。なかんずく、「国づくり」の基礎ともいうべき「人づくり」を大切にされました。太子は、「人づくり」には人間を正しく理解することが大切で、仏教の説く人間理解でした。太子は、人間を執着(我執)から離れられず、煩い悩みをもつ生きものである。即ち「皆凡夫である」と理解し、仏教を「四生(生きとし生けるもの)の終帰(よりどころ)、万国の極宗(依るべき教え)」として位置づけられ、『十七条憲法』の制定を始め、全ての活動の根底に置かれました。
しかし、こうした太子の努力の中にあっても対立や戦はおさまらず、理想のすがたの実現の難しさを痛感されたことと思われます。今月の言葉は、太子の透徹した眼で捉えられた世間を、妃橘大郎女に示す教えであったのではないでしょうか。太子の業績のひとつ『法華経義疏』の中にも「聖義は是れ実、世事は是れ虚なり」と講じられています。(宗教部)
※「天寿国繍帳」の残片が奈良中宮寺に現存し、その残片中に銘文がある。国宝。
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