不邪淫(ふじゃいん)「五戒」
仏教徒であることの証しは、「五戒」と呼ばれる五つの戒めを守ることです。その第三が「不邪淫戒」です。とくにこの戒は、在家の仏教徒に向けて発せられています。
「邪淫」とは、夫婦以外の者と肉体関係を持つこと、もしくはそれに至るおそれがあるような行為全般を指します。仏教のみならず世界宗教の多くは、在家者に対しては一夫一婦制を掲げて、生涯の伴侶との結婚生活を求めます。キリスト教社会ではさらに徹底して、人間を動物の上位に位置付け、その証しとしての結婚を神に誓うべき秘蹟(ひせき)(※)としたのです。
仏教では、性欲に支配されることは貪欲(とんよく)・瞋恚(しんに)・愚痴(ぐち)といわれる「三毒の煩悩」の中、正しいものの見方を妨げる、もっとも強大な煩悩であると考えました。
この戒は出家者には適応されず、「梵(ぼん) 行(ぎょう)戒 (かい)」を設けて、邪淫はもちろんのこと性欲そのものを抱くことが禁じられています。煩悩の異名である「繋縛(心を繋ぎ止め縛られること)」によって、深い迷いの状態に陥るからです。(太)
(※)秘蹟(秘跡):キリスト教において神と人間とを仲介し、神の恵みを人間に与える儀式のこと