『蓮如上人御一代記聞書』より
「あの人には絶対に負けたくない。」・・・・そのように「人に負けたくない」という思いは誰しもが心の中にもっていることだと思います。私達は、いつも何事に対して「他人には負けない」と勝つために努力し、懸命に頑張り続けます。今日の社会や教育を見ても、徹底的に「勝とう」「勝たせよう」「勝ち抜こう」と教えることが多いと思います。たしかに、自分より優れた人を見て頑張り、「競争心」をもつことは、自分における様々な向上に繋がっていくのも事実です。ですから、そのような心は少しは必要なのかもしれません。
しかし、仏法ではどうでしょうか。釈尊の教えに「諸法無我」があります。それは、「あらゆる事物には、永遠・不変な本性である我(が)がないということ」(大辞林より)です。蓮如上人は「仏法では無我であると説かれるからには、自分が自分がという執着する思いもなく、人に負けて、信心を得るものですよ。」とおっしゃっています。 「人に負けたくない」「少しでもよく見られたい」というこの心が邪魔をして、仏の教えを素直に聞けない私がいるかもしれません。心の奥底には、自分の思いが中心であり、その思いが強い分だけ思い通りになっていない現実を受け入れられないことになります。
今の現実から逃げるのではなく、私に降りかかる困難な現実をありのまま受け入れることができる。そのことが「負けて信をとる」という意味なのでしょう。正しい道理を得て自我を退ける。それは自分の思いやはからいの中にある、勝ち負けの世界というものを超えていくところに信心がおこってくるのかと思います。 (宗)
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