アップル社の創設者の一人であり、元アップル社CEOの故スティーブ・ジョブズ氏は、仏教に対し、非常に深い関心と理解を持っておられたそうです。今月のことばは、スティーブ・ジョブズ氏が、2005年6月12日にスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチの締めくくりとして、卒業生へ送った言葉です。
Stay hungry,stay foolish 直訳すれば「ハングリーであれ、愚かであり続けろ」ということになりますが、皆さんはこの言葉をどのように受け取られたでしょうか。スピーチは、「点と点を繋ぐ」「愛と喪失」「死」の3つの実体験を学生に語りかけ、最後に学生へのメッセージとして表題の言葉を贈る形で締めくくられています。私が初めてこのスピーチの原稿を読んだ時、スピーチ全体にも感動もしましたが、特に最後の短いこのフレーズが非常に印象的で、閉塞感が漂う現代社会を生きる私たちにとって、普遍的で、非常に大切な言葉であり、仏教にも通じる言葉だなと感じました。
Stay hungryとは、挑戦する心を持つことの大切さを語っており、ともすれば現状維持、安易な方向に流されがちな自分に対する叱咤激励、すなわち「これで良いのか問い続けなさい」という励ましでではないでしょうか。また、Stay foolishとは、周囲の意見や世の中の常識・慣例に捉われ、利口さを演じてしまう自分、アイデンティティを見失いがちな自分、また常に自分は正しいと我を張っている自分に気づかされる言葉、すなわち「自分を守ることに執着していませんか」というメッセージではないでしょうか。
往生念仏を説かれた浄土宗の祖である法然上人は、「浄土宗の者は愚者となりて往生す」と言っておられます。これは愚者、すなわち「愚かな身、どうしようもない自分であることに気づきなさい。ほんとうにそのことに気づくことができれば、自分に対する執着から解放され、平穏に暮らすことができますよ」ということで、愚かな身であることを気づかせてくれるのが念仏ですよと説いておられます。念仏とは、今がこれでいいか問うことですので、法然上人は「今がこれでいいかを問うことによって、愚かな自分というものに気づきますよ。その気づきが執着にまみれる自分を救ってくれるのですよ」ということをおっしゃりたかったのではないでしょうか。そう考えますと、Stay hungry ,Stay foolishというジョブズ氏のメッセージは、「今がこれでいいか問い続けなさいよ、愚かな身である自分に気づきなさいよ」という温かみのある励ましのように聞こえてきませんか。まだ、ジョブズ氏のスピーチを読まれたことのない方は、是非一度読まれることをお勧めします。(宗)
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