(相田 みつを)
卒業のシーズンが到来しました。卒業生の皆さんは、今、将にこれまで過ごしてきた学生生活を振り返り、同時に希望に満ちた新たな道を確かめつつ、第一歩を踏み出そうとされているところだと思います。
このことばは、詩人であり、書家でもあります、相田みつをさんの作品集のタイトルにあることばです。相田みつをさんは、かけがえのない尊いいのちの大切さと人生の歩み方について、慈愛に満ちたあたたかくてやさしいことばで私たちに語りかけてくださいます。
このことばについてご自身が「雨の日には、雨を、そのまま全面的に受け入れて、雨の中を雨と共に生きる。風の日には、風の中を、風といっしょに生きてゆく。特別なことではない、ごくあたりまえの生き方のことです。」(『生きていてよかった』ダイヤモンド社)と解説されています。
雨の降る日が必ずしも悪い天気だとは言えません。農作物や草木の生長には、雨が降ることは都合がよく、むしろいい天気と言えるでしょう。天気に限らず、あらゆる事象においてそれがいいのか悪いのかは、その状況によって、また、立場によって変わります。私達は、自己中心的で自分の価値観で物事を見て、自分勝手に良し悪しを判断しているに過ぎないのですが、なかなかそのことに気付くことができません。
雨の日には晴れの日を思うのではなく、雨の日をご縁として、雨の日に相応しい受け入れ方、雨の日にしかできないことがきっとあるはずです。ただ今、数限りないご縁によって起こった出来事が、自分にとって都合のいい縁であっても、都合の悪い縁であったとしても、そのすべてをそのまま縁として受け入れ、向き合い、そして乗り越えていくことが肝要なのではないでしょうか。
また、同じ解説の中で「この場合の、雨や風は、次から次へと起きてくる人間の悩みや迷いのことです。」と言われています。
釈尊は、自分自身をしっかりと見つめられ、人生は「苦」であると断言されました。このことから仏教が始まったと言えます。苦とは、人生において何一つ自分の思い通りにならないこと、と換言できます。人にとって思い通りにならない最大の苦は、自然の営みであります「生老病死」だと思います。仏教は、この「生老病死」の苦悩、不安、痛みと向き合い、受け入れ、超えていく道を見出すことができる教えだと言えます。私達が様々な出来事に突き当たり、苦しみ、思い悩み、そこから逃れたくなった時には、この仏教が教えるところの理念、智慧、方法を拠りどころとすることで対処していけるのではないでしょうか。今、新たな道を歩まれようとされている皆さんの前途に、雨や風の日があったとしても、現実から目をそらさず、ありのままを受け入れ、前向きに進んでいただきたいと思います。(宗)
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