今月の言葉は、明治時代の真宗大谷派の僧侶で、大谷大学初代学長である清沢満之先生の言葉です。
皆さんは「人事を尽くして天命を待つ」という言葉はよくお聞きになられたことがあると思います。広辞苑には「人間として出来る限りのことをして、その上は天命に任せて心を労しない」と書かれており、私は「結果がどうあれ、最善を尽くすことが大切なんだ」というふうに理解しています。
例えば、資格試験などに挑戦するとき、合格するかしないかを考えるより、開き直ってとにかく出来ることを一生懸命頑張ろうと心掛けたりします。しかし、最善を尽くした結果、自分にとって悪い結果がでれば非常に落胆しますし、また、心掛けてはみるものの結果のことが気になり、不安で仕方がなく、委縮したり、頑張りきれなかったりすることもあります。人間の心は弱いもので、「結果がどうあれ、最善を尽くすことが大切」というわけにはなかなかいかないものです。一方、清沢満之先生がおっしゃった「天命に安んじて人事を尽くす」とは、「ありのままの自分を受け入れ、最善を尽くす」というものです。ありのままの自分、すなわち悩みや不安を断ち切れず、それに惑わされる自分というものに気づき、そんな自分を導いてくださる大きなはからい(天命=他力)に任せ、最善を尽くしましょうということではないでしょうか。
親鸞聖人は「自力」ではなく「他力」によって人は生かされると説かれました。ここでいう「他力」とは、他人任せであったり、運任せということではありません。「わがみをたのみ、わがこころをたのむ、わがちからをはげみ、わがさまざまの善根(ぜんごん)をたのむ」(『一念多念文意(いちねんたねんもんい)』)という人間の小さな自我(自力)に任せるのではなく、自力を超えた大きなはからいによって自然とある結果におのずと導かれるという「他力」を救いとし生きていきましょうということです。すなわち、「他力」によって人は生かされるとは、無数の縁によって今ここにいさせていただいているという大きなはからいに感謝し、その感謝の心をもって安心して頑張っていきなさいということではないでしょうか。
このように考えますと清沢満之先生のおっしゃった「天命に安んじて人事を尽くす」という言葉は非常に趣の深い言葉として受け止めることができるのではないでしょうか。「なるようにしかならない。しかしおのずと必ずなるべきようになるのだから、皆さん安心して全力で生きていきなさい」という励ましのように聞こえませんか。皆さんはいかがでしょうか。(宗)
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