(木喰上人)
今月のことばは、木喰(もくじき)上人という江戸時代後期に生きた修行僧のことばです。木喰というのは個人の名前ではなく、木喰戒という厳しい戒律を守っている修行僧の呼び名です。木喰戒は、五穀(米・麦などの穀物)を断ち、火を通した物を取らず、山菜や木の実を食べて生活するという修行です。木喰上人は、45歳で木喰戒を受け、56歳から93歳で生涯を終えるまで、全国を行脚し千体以上もの仏像を彫り続けた人物です。
木喰上人は各地で人々の悩みを聞き、救済の願いを込め仏像を彫りました。その仏像には、ふっくらと優しい笑みを浮かべた穏やかな表情のものが数多くあります。中には、人々がなでて一部色が変わってしまった仏像や、子供のそり遊びに使われすり減って顔がない仏像もあります。庶民の願いに寄り添うように仏像は彫られ、庶民の心のすぐ傍に仏像はあったのだと思います。
北海道から鹿児島までの2万キロの旅の道中、木喰上人は様々な人々の苦しみや喜びを見たでしょう。木喰上人の仏像の特徴である微笑みは、木喰上人が83歳を超えてからの晩年の作品に見られるものです。多くの人々の生き様を見、行き着いた先はすべてを包みこむようなあの穏やかな笑みです。そして、「まるまるとまるめまるめよわが心 まん丸丸く 丸くまん丸」ということばが生まれました。さて、私たちは日頃どんな表情で生活していることが多いでしょうか。仕事や家庭生活の中で、いつもにこにこ穏やかに笑えているでしょうか。 自分自身を振り返ってみると、例えば仕事がうまくいかないときは不機嫌な表情になっていると感じますし、そんな時は周囲の人にも優しくできていないと反省します。
笑顔は人を幸せな気持ちにします。そして笑顔は笑顔の連鎖を引き起こします。私は笑顔の根っこにあるものは、穏やかな心と敬愛の気持ちだと思います。自分を取り巻く事柄に不満の気持ちばかりを持っていれば、苛立ちこそあれ笑顔は生まれません。周囲のすべてに謙虚に感謝する気持ちがあれば、心は満ち足り、笑顔が生まれると思います。
河原の小石が丸い形をしているのは、川の流れに流され角がとれているからです。
人も同じだと思います。生きていく上で人の波にもまれ、角と角が触れ合い傷ついて痛みを知り、少しずつ丸くなって生きていけると思います。
心のありようで現実が地獄にも極楽にもなる、そんなことを思いながら、木喰上人の仏像のような柔らかく丸くあたたかな笑顔で生きていけたらと願います。(宗)
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