今月の言葉は、あるお寺の伝導掲示板に書かれていたのですが、私自身とても興味深いと思い頭から離れずにいた言葉です。
単純に考えれば「人の為」と書けばすごく良い漢字が連想されるのですが、「偽」(いつわり)という漢字になるのです。なぜ?と思いませんか。ならば、そもそも「偽」という漢字の成り立ちはどのようになっているのでしょう。
「偽」の語源とは、まず「為」という漢字を紐解く必要があります。「為」とは 「手」と「象」から出来ています。人間が象を手なずける様子を表しています。 そこに人偏がつくと、人間が作為的に手を加え、本来の性質や姿を矯め直すと いう意味になるそうです。要するに人の作為で姿を変える、正体を隠して上辺を 取り繕うという意味から「いつわる」となったとされています。
ところで、私たちは日常生活の中で、よく「誰の為にしてあげたと思ってるの」 「あなたの為を思ってしてあげたのに」などの言葉を使ったり、聞いたりすると思います。しかし、突き詰めていけば、自らの尺度・基準の中で都合の良し悪しを判断し、行動に移しているのであって、その者の本来のあるべき姿に私達が手を加えている「偽り」とも言えるのではないでしょうか。
浄土真宗の宗祖である親鸞聖人は、宗教に対し、真と仮と偽があるとし、それらを厳しく見極められ、まことの宗教は浄土真宗であると示されました。また、『「真」の言は偽に対し、仮に対するなり。』(教行信証)という言葉を残されています。意味は、「真」とは、人生においてなくてはならないことです。これを失えば生きていることが空しく過ぎてしまいます。「偽」とは、人生にあってはならないものです。これにとりこまれると人生が台無しになってしまいます。「仮」とは、「真」に出会うために立てられたものです。その意味で人生において必要なものです。しかしその「仮」に固執すると「真」を見失ってしまうかもしれません。私達は真実の心に出会うために、自分自身と向き合い、偽りを偽りと判断できるように仏法の教えに触れていくことが大切であり、そこではじめて「偽りのない真の心」を持つことが出来るのではないでしょうか。(宗)
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