「不易流行」という言葉があります。俳聖(はいせい)松尾芭蕉が「奥の細道」の旅で会得した蕉風俳諧の考え方の一つです。そのことを、向井去来(むかいきょらい)がまとめた「去来抄(きょらいしょう)」(芭蕉の俳論をまとめた江戸時代の書)で説明していますがその中で、次のような一節があります。
「不易を知らざれば 基(もと)立ちがたく、流行を知らざれば 風新たならず」 (去来抄)
「不変の真理を知らなければ基礎が確立しない、変化を知らなければ新たな発展がない」という意味です。続けて「両者の根本は一つ」であり「それらは結びついてないといけない」と言われています。
そして、服部土芳(はっとりどほう)の「三冊子」には、「その根本は、「風雅の誠」(芭蕉俳諧で美の本質をさす)であり、これを追究する精神が、不易と流行の根底にはなくてはならない」と書かれています。「不易ということを知らなければ、本当にその風雅の誠という意味を知っていることにはならない、不易というのは、古いとか新しいとかで価値が決まるものでもなく、物事が移り変わったり、はやったり、廃れたりすることに左右されるものでもなく、誠に時代や環境を超えてしっかり自立してそこにある姿をいうのである。」と。
すなわち、物事の本質を見極めることが何よりも重要であると言われています。これらは、俳諧に対して説かれた概念ではありますが、学問、文化、社会、ビジネス、人間形成など、さまざまなものに当てはまると言われています。特に最近は、これまでの仕組みや枠組みが変わり、当然と考えられていた物の見方や考え方が劇的に変化するパラダイムシフトの時代であると言われています。人口減少・グローバル化による社会構造変化をはじめ、AIやDXの進展、新たな価値観や多様性の受け入れ、産業界の新しいビジネスモデル創造、働き方の見直しのなど、急速でさまざまな変容に私たちは直面し、大なり小なり連続した判断・選択を迫られています。
よって、先人が残された経験や生み出された知恵は人類の大きな財産であり、それらに学ぶことが肝要なのです。時代が変わったのにも関わらず、古くからのしきたりややり方にとらわれていると、衰退の一途をたどってしまいますし、一方で変えてはいけない部分を変えてしまうと、すぐさま形は崩れてしまいます。
例えば、利益優先の考え方などにより偽装表示や検査不正などをしてしまった組織などは、これまで守ってきた「不易」の部分を欠いてしまったために、信頼を失い、社会に対し大きな影響を与える結果となっているわけです。学校教育で言うなれば、建学の精神やそこから流れる教育方針が「不易」にあたります。その精神を基に、現代の子どもたちの変化を捉えながら、教育を変えていくことが「流行」、そして「両者の本は一つ」として捉えるとともに、「揺るぎない本質をいかに見極めることできるか」が、最も重要であるということになります。
人間形成で申しますと、私たちにとっての「不易」は「仏の心」であると考えます。私たちや社会がどのように変化しようとも、「仏の心」はいつの時代も変わることがなく、阿弥陀様は微動だにしないのです。このことは私たちの心の拠り所として存在します。常に変化する時代において、お念仏の教えの本質を見失うことなく、日々仏法を聴聞し、感謝の心をもって生活を行うことが大切であると考えます。
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