今月の言葉は、今から四十五年程前に東本願寺から出版された「今日のことば」に掲載されていた言葉です。どの世界、業界にもいわゆる「実力者」が存在します。「実力者」とは、おかれた環境の立場立場において、抜き出た力(影響力・支配力)を持っている人のことを指します。ただし、今月の言葉のようにすべての「実力者」が「自分に反対する者を愛す」のかと言えばそうではありません。では、本当の「実力者」とはどのような人なのでしょうか。
「実力者」は、二つに分類することができます。一つは「表の実力者」、もう一つは「影の実力者」です。同じ実力者でも全く性質が異なります。前者の特徴は、いわゆる人前にどんどん出ていき、いろいろなしがらみの中で実力を発揮しているタイプです。後者の特徴は、出しゃばることもなく自然体でいながらも、牽引力や統率力を発揮するタイプです。皆さんの身近にも思い当たる人がいるのではないでしょうか。しかし、何れの「実力者」にも必ず「初心」があったことには違いありません。
例えば、親子の関係ではどうでしょうか。子育ては非常に大変なことです。しかし、楽しみに満ち溢れています。さらに親は、子供に対し、親としての「初心」を持ち、いろいろな夢や希望を抱きます。ところが、親の意思どおりに子供が成長するかと言えば、そうともいえません。親子のぶつかり合いは、必ず起こります。しかし、親子の中では絶対的に「自分に反対する者を愛す」という関係が成り立っているのではないでしょうか。大切なことは、子育ての中で子供の意思も尊重し、親の意向も子供へ伝え、可能な限りお互いの意見を尊重しながら育てていくのが理想ではないでしょうか。
仏教に、菩提(煩悩を断ち切って悟りの境地に達すること)を求める心、「発菩提心」または「発心」という言葉があります。この「発心」が正しくなければ、何をやっても虚しい時を過ごすことになってしまいます。その「発心」は、最初に一回だけ発せばいいというわけではありません。日々何度も何度も繰り返し発し、自らの言動や行動を軌道修正していくものです。
私たち人間は皆、それぞれの立場や環境が変わるにつれ、初心を忘れてしまいがちです。
そうした中で、初心を忘れずに物事を判断し、絶えず相手の立場に立って行動する人こそ、真の「実力者」であり、その実践者のみが「自分に反対する者」を愛することができるのではないでしょうか。(宗)
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