「急がば回れ」という言葉があります。早く目的地にたどり着きたいときほど、近道や安易な抜け道を探すのではなく、一見時間がかかるように見える王道を歩むほうが、確実で早いという意味です。
私たちは大きな目標を前にすると、つい要領のよさを求めたり、すぐに成果が出る方法を欲しがったりしてしまいます。しかし、人生において本当に価値のある力は、一歩一歩の地道な継続によってしか培われません。この「一見遠回りに見える地道な歩みこそが力になる」ことを教えてくれる、ある学者のエピソードがあります。
かつて北京大学で教鞭をとった世界的な碩学、季羨林(き・せんりん)先生です。(中国人ではじめて日本学士院の客員会員になった方です。)先生は当時、政治的・社会的な動乱のなかで、ドイツ留学の経験ゆえに苛烈な迫害を受けました。研究の場を奪われた先生は、明日をも知れぬ不安に包まれながらも、古代インドの長大な叙事詩『ラーマーヤナ』の翻訳に密かに着手しました。世界三大叙事詩にイーリアス、オデュッセイア、マハーバーラタというのがありますが、ラーマーヤナはマハーバーラタと並び、しばしばインド二大叙事詩と形容されます。
許されたわずかな時間で、一日数行ずつ。気が遠くなるような歩みでしたが、先生は決してやめませんでした。およそ十年後、その積み重ねは全7巻に及ぶ中国語訳の翻訳として実を結びました。奇策に頼らず、「今日できること」を続けたからこその成果であるといえるでしょう。
今、看護師や管理栄養士をはじめ、国家試験の合格に向けて懸命に机に向かっている学生の皆さんもいることでしょう。覚えるべき膨大な知識を前に、「本当に間に合うのだろうか」と焦りを感じる日もあるかもしれません。
しかし、命や健康を支える専門職に求められるのは、小手先のテクニックではなく、揺るぎない確かな知識です。今日解いた一問、今日覚えた一つの単語。その小さな歩みは、決して遠回りではありません。
急がば回れ――目の前の「今日の一歩」を信じて積み重ねていくことこそが、合格、そしてその先の未来へ続く一番の近道です。
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